学部長エッセイ(2023.03)

卒業式

 全学のWebサイトでも広報されていますが、さる3月23日(木)に、4年ぶりに全学の卒業生・修了生が集った形で卒業式が挙行されました。

 山口大学の卒業式は、まず全学での卒業式を行った後、一人ひとりに卒業証書を授与する学部ごとの式が行われます。

 以下に掲げる式辞にも記しましたが、3年ぶりにマスク越しではない卒業生の顔を見ることができて本当に幸いでした。
 昨年度は、簡略化した形で挙行したため「極力短く」との要請に応えるよう式辞を事前に作成しました。今年は用意されたプログラムで「5分」となっていました。一度話し始めると長くなってしまいがちなのが自分の悪癖なので、今年も事前に式辞を用意した次第です。


 1週間ほど前から桜の蕾の膨らみ具合が気になっておりましたが、今日の良き日に間に合わせるかのように蕾が開き始めています。国際総合科学部の83名の卒業生の皆さん、ならびにライブ配信をご視聴中の卒業生のご家族の皆さま、ご卒業、本当におめでとうございます。

 大学教員をしていて、今日、卒業式の日は、少し寂しくはありますが、それでも1年で一番嬉しい日です。

 毎年のことですが、この季節になると、皆さんと過ごした年月(としつき)が自然と思い起こされます。とりわけ印象深いのは、2017年から3年連続で国際総合科学部の1年生と一緒に赴いたフィリピンのメトロ・セブはマクタン島で過ごした日々です。特に2019年入学の皆さんとは、出発から帰国まで4週間フルに寝食を共にしました。短期間で英語力を鍛え上げることが目的でしたが、生活環境が全く異なる異国の地で、マンツーマン主体の英語の特訓を1日8時間、毎日毎日繰り返すのは決して生やさしいことではありませんでした。皆さんの苦闘を少しでもサポートできていたのなら本当に幸いです。
 他方で、このフィリピンでの研修を乗り越えていくことで、みるみる間に皆さんが成長していき、国総生として仲間との絆を育んでいく姿を直接見聞できたことは教員冥利に尽きるとても貴重な経験でした。また、極めて個人的な副産物でありましたが約一月のフィリピン引率を通じて皆さんの顔と名前を完全に一致させることができたことは本当に幸いでした。1学年100名の学生さんたちの顔と名前が一致することが国総教員の一員としてひそかなプライドとなっていたことに、フィリピンに行けなくなってしまってはじめて気づいたような次第です。

 思えば、フィリピンでの英語研修は留学準備の重要な一環でもありました。しかし、2019年入学の皆さんにとって、いよいよ留学に旅立つ2年次以降への希望と期待に満ち溢れていたちょうど3年前、2020年3月、突然、卒業式中止の決定がアナウンスされました。それまで、どことなく対岸の火事の気分でいた日本でもコロナ禍への危機感が一気に高まった瞬間でした。それでも、当初は比較的短期間で収束するのではないかとの希望的観測もありましたが、事態は緊急事態宣言へと悪化していき、特殊な事態への諸々の対応はひたすら長引いていきました。卒業式に関して言えば、昨年、一昨年と中止にこそなりませんでしたが、感染対策のため極めて簡略化された異例の形で挙行するしかありませんでした。そして今、3年が経過し、ようやくアフター・コロナ、ポスト・コロナの体制へと移行しようとしています。こうして卒業式も4年ぶりにほぼ通常の形で挙行でき、3年ぶりにマスク越しではない皆さんの顔を見ることができて本当に嬉しく思います。

 言うまでもなく、コロナ禍により、世界中のすべての人々が大きな影響を被りました。けれども、こと日本に関していえば、体力的に弱った高齢者を別にして、大学生以下の若い人たちほど甚大な影響を被ったように感じます。理由もはっきりしていて、若い世代こそ人との触れあいを通じて様々な経験を積んでいくことが特に重要であるのに、人と人の生身での接触に強い制約が生じたためです。それまで当たり前にできていたことの多くができなくなってしまい、改めて日常のありがたさを痛感したことがコロナ禍の苦い教訓でした。

 特に、国際総合科学部にとって、1年次のフィリピンの語学研修や1年間の留学ができなくなってしまったことは決定的でした。2019年入学の皆さんにとって、入学時から楽しみにしていた1年間の海外留学を断念せざるを得なかったことは本当に痛恨の極みであったと思います。必然的に2年次以降の学生生活のすべてがまったく異なったものになってしまいました。こうした極めて困難な状況下で学生生活をやり遂げた皆さんの健闘を心から称えたいと思います。

 月並みな言葉ではありますが、「人生山あり谷あり」と言います。まったく予期せぬ事態が現実に生じ、思い描いていたプランが頓挫してしまうことは今後もきっと生じると思います。
 既に皆さんの視線は4月以降の新生活に向いていることと思いますが、今後、社会に出て自分の足で自分の道を歩いて行く皆さんにとって真価を問われるのは困難な状況に直面したときです。そんなときに、逃げ出さずに勇気を持って立ち向かうことが何よりも大切です。仮に立ち向かったとしても上手くいかないこともあるかとは思いますが、それもまたその後の人生を歩んでいく上で貴重な経験になります。

 最後に、私の好きなアインシュタインの言葉を餞として贈りたいと思います。

Education is what remains after one has forgotten what one has learned in school.

 やや意訳することを許してもらえるならば、「本当の学びの成果とは、学校で学んだことをすべて忘れ去ってもなお残っているもののことである」という意味になるかと思います。頭で覚えた知識は忘れてしまうこともあるでしょう。しかし、国際総合科学部で過ごした4年間の日々で心と身体に刻み込んだことは生涯残り続けます。それが今後の皆さんの長い人生の支えになることを心から願っています。

 改めて、ご卒業おめでとうございます。

国際総合科学部長 川﨑 勝


 正確には任期は3月末まで残っていますが、卒業式を終えると学部長としての仕事は実質的におしまいです。無事に任期を全うできてホッとしています。
 4月から国際総合科学部の一教員に戻りますが、今後も国際総合科学部の発展のために尽力していきたいと思います。